ハニー♡トースト
お屋敷を案内する間、お父さんはずっとすごいなあ、を繰り返していた。
私はその度に笑ったけど、根本さんの言葉を思い出しては、笑顔が苦笑に変わった。
さすがは尊敬する大先輩だ。
お屋敷ですれ違う使用人の一人一人にお父さんは「娘がいつもお世話になっております。今後とも、よろしくお願いします。」と深くお辞儀をしていた。
良いお父さんだね、と言われるたびに少し照れくさかったけど、その何倍も嬉しかったんだ。
「じゃあお父さんはここで待っててね!」
私は食堂の椅子にお父さんを座らせて、厨房に向かう。
「森さん、少しだけ使わせていただきますね」
森さんは私の方をちらりと見てから、ゆっくりと頷いた。
「ありがとうございます!」と言って私は急いで準備に取り掛かる。
私は決して器用ではないので、それなりに時間がかかる。
「えっと…卵と砂糖と…」
「なに、なんかつくんの?」
私は思わず卵を落としそうになる。
「朔弥様!驚かさないでください!」
振り返ると、すぐ目の前に綺麗な顔があった。
それだけで、心臓がぎゅっとなる。
私は慌てて前を向く。心臓に悪すぎるよ…