ハニー♡トースト


朔弥はおもむろに立ち上がると、私の髪にそっと触れる。


「お前のことは、知っておきたい」


「…ずるいです」


そんな風に言われたら、そんなに優しく触れられたら。


拒絶できなくなる。


「…お母さんの、命日なんです」


12年前の今日、母は死んだ。


「夢を見るの、今日が近づくと。あの時の夢」


耳を塞いでも聞こえてくる、同情の言葉、心無い言葉。真っ暗な部屋で泣くお父さんの大きい、それでいてどこか小さな背中。


頭の後ろに手が回されたかと思えば、引き寄せられて私は朔弥の肩におでこを沈める。


大好きな匂い。安心する。

< 146 / 233 >

この作品をシェア

pagetop