君の瞳にわたしが映っても(完)


わたしは物心ついた頃から、家事から仕事まで、全部父がこなしていた。


橘家の大黒柱であった父はいつだって頼り甲斐のある、とても優しい人だった。


きっとみんなの理想の『お父さん』だったと思う。


料理も出来て、お裁縫も出来て、キャッチボールも出来て、とても面倒見のいい父親だった。


そしてわたしには大好きな兄がいた。



橘蓮。



兄は小さい頃から気弱で、妹のわたしがいつも兄を守ってあげていた。


兄はずっと喘息で、とても体が弱かったため、性格まで臆病でおとなしくなってしまった。


喘息が治っても兄の性格は変わらず、小学校高学年になってもよく泣いていた。


その度にいつもわたしと父が二人で兄を励ましてあげていた。


二個違いだったため、普通ならケンカも多いはずのもの、わたしたち兄妹はとても仲が良かった。ケンカなんて数えるほどしかしたことがなかった。


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