君の瞳にわたしが映っても(完)
声を出すと、奥からすすり泣く声が聞こえてきた。やっぱりね。

私の勘をなめないでよ。

わたしは一番奥の白石さんがいる個室に歩み寄ると、背を戸に預けた。

「…グスッ…。」

こりゃ相当泣いてるな。

別にかける言葉もなかったけど、離れる気もしなかった。ただトイレのドアに寄りかかっていた。

悲しい時、変に問われるのはもっと苦しい。

わたしだったら、なにも聞かれず、ただそばにいてくれたらほっとする。誰かが自分のことを気にかけてくれてると感じるだけで、心がじんわりと温かくなるんだ。

「わ、わたしね…ぐすっ…」

白石さんが小さな可愛らしい鼻声ではなし出す。
< 26 / 272 >

この作品をシェア

pagetop