夏のキミは、まぼろし
1.教室の片隅のキミ
「美緒~!行くよ~!」

「あ、うん!先に行ってて~!」

 寂しそうな背中が何故だか綺麗に思えて目が離せなかった。
 そしてその背中は寂しくなんてなかったんだ。



 昨日、見た背中は同じ教室にいた。
 新山くんっていうらしい。

 いつも誰ともつるまずにいる彼は教室の片隅にいた。



「この後、カラオケ行かね?」

「俺、ボーリングがいいな~。」

「ねぇ。美緒はどうする?」

 彩香が笑顔を向けてくる。
 でも私は片隅のキミに釘付け。

「何?美緒。あの新山くんが気になるの?」

「あいつA組らしいから。ノリ悪いぜ。」

 今は夏休みの補習。
 基本は自由参加。

 ただし直々にお達しが来ることも。
 かく言う私もそのくちだ。

「A組で補習に来る必要ある?」

 みんなが言っているのは、うちの高校では成績順にクラス分けがあって、成績がいい順からA組、B組、C組…となっている。

 ちなみに私達はD組だ。

「勉強、頑張るなんて馬鹿らしいよね。
 高校なんて遊ばなきゃ損だよ。」

「う、うん。そうだね。」

 私は笑顔を貼りつかせて答える。

 いいな~。新山くんは…。

 そう思ってチラッと視線を移した先の新山くんが私を見て笑った気がした。

 それは微笑んだ、ではなくて鼻先の馬鹿にしたような笑い。

 なんで笑われなきゃいけないのよ!

 憤慨した視線を送っても、片隅のキミは窓の外を眺め始めてしまった。

 外には教室の狭い空間とは違う、別の世界が映し出されているのかな…そんな気持ちにさせる。
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