夏のキミは、まぼろし
10.まぼろしのキミ
 始業式の今日は半日で終わりだ。

 あの後、B組やC組でも新山くんがいないか聞いてみたけれど、やっぱりいなかった。

 D組以降のクラスのわけはない。

 そしてあれ以来、補習はもちろん図書館でも姿を見ていない。
 やっぱり夢かまぼろしだったんだと思うしかなかった。



 今日も図書館に行こうと彩香と歩く。

 校庭から校門を見ると誰かを待っている人らしい人影があった。
 その人はこちらに気づくと笑顔を向けた。

「美緒ちゃん。」

 手を振っているのは、まぎれもなく新山くん。

「な…んで。」

「説明はあと。美緒ちゃん借りてくね。」

 驚く彩香に断りを入れて新山くんは歩き出す。

 どうしてA組にいなかったのか、どうして校門にいて、そして制服ではないのか。
 いろんな疑問がごちゃ混ぜになるのに、会えたことが嬉しくて何も聞けなかった。

 しばらくして無言で歩いていた新山くんが振り向いて告げた。

「行ってみたくない?八角大学。
 遠いけど半日あれば行って帰ってこれるし。」

 思いもよらない提案だった。
 もちろん行ってみたかった。

 頷いて、駅に向かっていると気づいた道を歩いた。

 電車に乗ると新山くんが浮かない顔の気がして、はしゃいで話してしまった。

 こんなことしてたら合わせてるだろって言われそうなのに、新山くんは何も言わずにただ微笑んでいた。
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