夏のキミは、まぼろし
11.キミは誰?
 大学に着くとパンフレットやネットで見た通りの佇まい。
 美緒はドキドキしているのに新山くんはずんずんと進む。

「おう!なんだよ。翼!
 今日はお前がとってる講義あったか?」

「いや。後輩の大学案内。」

 新山くんが私を指し示すと
「やる~女子高生かよ!」
 と冷やかしの声を浴びせられた。

 翼?…後輩?

 疑問が後から後からわいてくる。

「ほら。ここが教室。
 高校とはちょっと違うよな。」

「あれ?翼!お前サークル来いよ!」

「あぁ。また行けたらな。」

 高校の新山くんとは全然違う…。
 私が見てたのって…。
 やっぱり、まぼろしだったんだ。

 どんどん寂しくなって先を歩く新山くんが涙でにじんでぼやけてしまう。

「え?あれ?ゴメン…。
 説明が先のが良かったか。
 悪い。悲しませるために連れてきたんじゃないんだ。」

 不意に手を握られて、それはあのファミレスで触れた時とは違う。
 暖かくて力強くて生きてる温もり。

 なんだろう。どこに行くんだろう。

 連れてこられたのはアパート。
 鍵を開けてドアを開けた。

「狭いけど入って。」

 促されて入るとほとんど何もない部屋。

「俺さ。…実は大学生。八角大学の。」

 さっき見て回った時に声をかけられて、そうなのかもと思った。

 でも…。

「どうして高校に…。
 というか私のことからかってたの?」

 自分で言ったことなのに悲しくて声が震えてしまう。

「ちがっ…違うんだ。」

 新山くんはバツが悪そうに申し訳なさそうな顔をした。
 初めて見せる表情だった。




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