夏のキミは、まぼろし
12.キミの思い
「俺、やり直したかったんだ。」

「やり直す?」

「うん。偉そうに言ってたけど、俺はやり直し中だったんだ。」

 やり直すとか、やり直し中とか、よく分からない。
 でももしかして自分を偽ってたことがあるって話してくれたあれ…。

「自分が分からなくなったのは高校二年。
 理由は前に話したよな。」

 美緒は頷いてみせた。

 やっぱりファミレスで話してくれたあれのこと…。
 彼女に振られたから…。
 イメージと違うって。

「だからそこからやり直そうって思って高校の夏の補習に参加したんだ。
 コスプレよろしくの高校の頃の制服を着て。」

 高校の頃の先生と親しくて勉強したいから参加したいって言ったらOKしてくれたこと。
 A組は高校の頃の自分のクラスだったこと。
 私が見たA組の新山くんは弟だということも話してくれた。

「だからって何か変わるわけじゃないのに、何やってんだかって思ってた時に美緒ちゃんを見つけて。」

 まっすぐなまなざし。
 そこに嘘はなかった。

「君とちゃんと向き合うために昔と決別してきた。」

「昔と?」

 やり直したかったことを、やり直せたってことなのかな。
 私に無理して周りに合わせるなって言った手前、自分もちゃんとしようって思えたってことなのかな。

 何が言いたいのか美緒は推し量り兼ねていた。

「俺、自分を偽って周りに合わせて、本当の自分がどれなのか分からない時に彼女ができたんだ。」

 チクッと胸が痛む。

 それでも彼女がいたんだ。
 自分が分からなくなってつらかったみたいなことを言ってたのに。私は何の発表を聞いてるんだろう。



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