夏のキミは、まぼろし
13.キミと……
 悲しくなる心によく分からない言葉が届く。

「だから彼女と別れてきた。
 それでバイトも始めた。」

「え?は?何、言って…。」

「俺は大学に入ってからは自分を偽ってない。
 でも高校の終わりに付き合い始めた彼女は昔の俺のまま。
 合わせて、偽った付き合いだったんだ。」

 沈黙が流れた。
 何を言えばいいのか分からなかった。

「彼女とは会ってなかったけど、別れずにもいて。
 そんな風にまだ自分を取り戻せてない自分に嫌気が差して、高校から自分が分からなくなった高校の夏からやり直そうって。
 そしたら美緒。君に出会ったんだ。」

 まっすぐ見つめる瞳に吸い込まれそうになる。

「君と向き合いたい。本当の俺でいたい。
 俺は君のことが………。」





 春。

 美緒は八角大学の構内にいた。

 もちろんあれから猛勉強して、受かったのだ。
 八角…付属短期大学に。

「確かに一緒に…通えるな。
 同じ敷地だもんな。」

 美緒の隣にはハハハッと笑う新山くんがいた。

「これでも、ものすごく頑張ったんだよ!」

「そうですねー。」

 新山くんの心ない返事が憎たらしい。

「だいたい急に、俺は大学生で彼女と別れてバイト始めたって言ってきた新山くんに言われたくない。」

 だいたい意味不明だし。その宣言。

「は?だからあの時、言っただろ?
 女子高生と付き合う大学生が苦学生で金ないなんてかっこつかないって。」

 気にするところが変なんだもん。
 そんなところがさすが新山くんって感じなんだけどさ。

「その時は付き合えるかも分からなかったでしょ。」

 私が意地悪く言い返すと、いたずらっぽい顔が向けられた。

「良かったでしょ?一緒に通えて。
 美緒ちゃんは短大ですけどねー。」

「もう!うるさい!」

「でも、一緒に卒業できるね。」

 そう言った新山くんの笑顔は眩しかった。
 そしてサラサラと流れる髪からシトラスの香りがした。


< 15 / 16 >

この作品をシェア

pagetop