夏のキミは、まぼろし
「暑っ!」

「ハハッ。本当だな。」

 屋上の焼けるような暑さの中、初めて見た笑った顔に不覚にも鼓動が早まる。

「本当だなって、いつもここに来てるわけじゃなくて?」

「いや。違うけど?」

 かろうじて陰になっているところに座った新山くんは「ここなら風が通るし、まだ居られるかな。」と言いながら隣を空けてくれた。

 その所作が自然で、ついこちらも自然に隣に座った。

「で?やっぱり疲れた?」

 いたずらっぽく笑う新山くんが憎たらしいのに眩しかった。
 無言の美緒に新山くんは言葉を重ねる。

「無理しなくてもいいのに。」

 その一言は私の胸にストンと落ちてきて、蒸し暑い屋上にいることを忘れてしまいそうになる。

「なんで私にそんなこと言うの?」

 放っておいたら涙さえ出てしまいそうで、誤魔化すようにつっけんどんに吐き出した。

「だって。俺もそうだったから。」

「え?」

 思いもよらなかった。
 想像できなかった。

 ふぅーっと後ろ側に手をついて空を見上げた新山くんの髪がさらさらとこぼれた。

 その髪からシトラスの匂いが香る。

「無理するなよ。
 って言われてすぐ変われたら苦労しないよな。
 疲れたら俺のとこ来てもいいぜ。」

「え?」

 それは、どういう…。

「じゃ俺、帰るね。」

「え?」

「また気が向いたら、補習が終わった後に行くとこ教えてもいいよ。」

 ん~っと伸びをした新山くんは本当に帰っていってしまった。



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