夏のキミは、まぼろし
「あれ。今日も疲れちゃったわけ?」

 クスクスと笑う新山くんが、誰もいない教室に今日も残っている私に話しかけてきた。

「別に疲れたから残ってるわけじゃなくて…。」

「このあと、俺がどこ行くか知りたいわけ?
 でも気が向いたらって言ったでしょ?」

 いたずらっぽい笑顔を向けて教室の出口に向かう新山くんを追いかける。

「屋上だって構わない。」

 思わずこぼれた本音に自分自身がびっくりする。
 新山くんはまたクスクス笑っている。

「すぐに謎が解けたらつまらないと思うけど。
 ま、いっか。それで気が済むなら。」

 再び歩き出した新山くんは今日こそは昇降口へ向かった。



 アスファルトからは照り返しの熱がじりじりと肌を焼く。
 それなのに新山くんの半袖からのぞく腕は自分の腕と並べたくないほどに白かった。

 たまにこちらをうかがう素振りを見せながら前を歩く新山くん。
 何か話せばいいのに、何か話したら自分の頭の足りなさが露呈してしまう気がして、何も話せなかった。

 だって普段、友達と話すことと言えば、今日はどこに遊びに行くのか。今日も補習だるい。ってことだけ。



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