夏のキミは、まぼろし
6.冷たいキミ
 美緒はファミレスのソファに座っていた。
 向かいには新山くん。

「まだ時間大丈夫?」と言われて、そのままファミレスに来ていた。

 注文が終わるや否や新山くんが口を開く。

「さっきの参考書、見せて。」

「え?」

 言われるまま鞄から取り出すと、何やらペラペラとページをめくっている。

「やっぱり。間違ってる。」

「え?」

 指し示されたページ。
 何が間違っているのかさえも分からない。

 フフッと笑う新山くんが憎らしいのに、何も言えない。

「この公式。使い方を間違えてる。」

「これはこう?」

「違うって。」

 そう言って新山くんは美緒が持っていたペンを奪った。
 触れた手がひやっと冷たくてドキンとする。

 サラサラと書いていく綺麗な公式。
 つい見惚れていると新山くんの顔がずいっと迫ってきて思わずのけぞった。

「で、分かった?」

「え…。はい。」

「よろしい。」

 ふわっと笑って美緒の頭に手を伸ばす。
 その手でわしゃわしゃと頭をなでられた。

 また胸がドキンと跳ね上がって新山くんを見られなかった。




「ねぇ。大学、志望校どこ?」

「…志望校って……。」

「笑わないから。」

 笑えること前提で聞いてくる新山くんに些か腹立たしく思いながら控えめに発表する。

「…八角大学。」

「マジで。俺も。八角。」

 嘘…すごい偶然。でも…。

「で、何判定?」

「…D。」

「ハハッ。俺、A。」

 DにA。
 クラス分けと同じく、その差は高い壁のように限りなく遠く高いものに感じる。

「クラスもDだったよな?
 判定もDって。狙ってる?」

 好きでそうのわけない。

 むくれて返事をしないでいると新山くんはクククッと笑う。

「八角が志望校なら今から勉強したって遅いくらいだろ。」

 分かってる。分かってるけどさ。

 Dクラス。

 なりたくてなっているわけじゃないけど、頭が足りなくてDクラス。
 そこで仲良くなった子達はみんな勉強をするのはかっこ悪いという風潮で、そこから外れてしまったらダメな気がしてしまう。

 だってそもそもがDクラスだから。

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