夏のキミは、まぼろし
7.本当のキミは?
「俺さ。
 犬か猫かって言ったらどっちの性格だと思う?」

「は?」

 突然の質問に一瞬、思考回路が停止しそうになる。

「えっと…。そりゃ猫なんじゃない?」

 マイペースそのものの新山くんが犬のわけがない。

「だよな。でもな。
 猫っぽいと思ってたのに!って振られたことあってさ。
 …それで自分を見失ってた時期があった。
 猫っぽいって言ったって全てが猫のわけないのにな。」

 振られた…。彼女いたんだ。

 そんなことに胸がチクッとする。

 振られて自分を見失うほどの。

「そしたら急に自分が分からなくなってさ。
 猫なのか犬なのか、はたまた自分はなんなのか。
 基本、マイペースで周りに合わせるタイプじゃないのに、周りの目を気にして、合わせて。」

 新山くんが他の人に合わせるところなんて想像できない。
 それほどまでに振られたショックが大きかったのかと思うとますます胸が痛くなった。

「だからかな。
 あんたが周りに合わせて無理してるの気になったんだ。」

 心配…してくれたのかな。
 マイペースなのに変な人。

「私も勉強しなきゃって思うんだけど、それを友達に言えなくて…。
 だから今日、図書館に連れてってくれたの?」

「いや。それはたまたま。
 図書館は本当に補習のあとに行く場所だっただけ。」

 新山くんは注文したドリアの最後の一口を頬張ると、空いたお皿を端に寄せる。

「時間まだ大丈夫なら、他のところも見てやるよ。
 八角に行きたいならもっとやらないと。
 一緒に行こうぜ。八角。」

 ニッシッシと笑った新山くんは、というか今の新山くんは補習でもどこにいても自然体で無理していないのが、接していてよく分かる。
 だから一緒にいて心地いいのかもしれない。

 昔は人に合わせてたなんて想像もできないほどに。

「私も…頑張ってみようかな。勉強。」

「あぁ。あんたなら大丈夫。友達にも言えるさ。」

「あんたって美緒って名前があります。」

「ハハ。はいはい。美緒ちゃん。」

 ふざけたように笑う新山くんが憎たらしいのに私まで笑えてしまった。
 無理してるわけでも周りに合わせてるわけでもない心から。

「俺はその頃をやり直したいって思ってた。
 美緒ちゃんはそこまでなる前に今なら軌道修正できるさ。」

 帰り際、優しくそう言ってくれた新山くんが何故だか寂しそうに思えて、それがどうしてなのか、その時は分からなかった。


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