イジワル上司の甘い毒牙
「どういうつもりなんですか?」
全面がガラス張りになっている、会社近くのオシャレなカフェ。
日高さんの絶やさぬ微笑みを前に、狐につままれたように生きた心地のしない感覚でボンゴレパスタをつついていた。
「どうって?」
この聡明な男のことだから全てわかっているだろうに、私からの言葉を待つように首を傾げられた。若干の苛立ちを込めてパスタをぐるぐる巻く。
「私、言いましたよね。この間のことは他言しないって」
日高春人が告白してきた女子に影で暴言を吐いていたこと。
こんなことを言いふらしたところで私に何のメリットもないし、人望の厚いこの人と職場で可もなく不可もない空気のような私、どちらを信じるかなんて火を見るより明らかだろう。
「あはは、それとは関係なく佐倉さんと仲良くなりたいなって思っただけだよ」
そう言って肩をすくめて笑った男に私は手の動きを止めた。
「――嘘。」
私が真っ直ぐに見つめてそう言うと、日高さんは顔を強ばらせて固まった。
「私が信用できないんでしょう。だからこうやって近付いて本当に秘密を話さないか見張ってる。違いますか?」
「……半分は正解」
日高さんの長いまつ毛が瞳に影を落とした。これ以上真意を話す気はないらしく、日高さんはその話題に触れることはなかった。
仕事の話だとか趣味の話だとか、当たり障りない、まるで職場の人とするような会話を交わしながら私は内心頭を抱える。
釈然としないもやもやした気持ちをかき消すように、私はやけくそにパスタを口の中にねじ込んだ。
これじゃあ私が言いがかりをつけていじめたみたいじゃない。