イジワル上司の甘い毒牙
「ごめんなさい……ずっと、忘れていて」
『うん。さすがにちょっと傷付いたかな。あの日だって、俺のこと好きだって言ってくれたから、思い出したのかと思ったけど、違ったし』
これじゃあ俺が付き合ってもない女の子に手を出した最低の男みたいだと、日高さんは自嘲気味に笑った。
日高さんは悪くない。悪いのは私だ。
「……日高さん、今お忙しいですか」
『え?いや、特には』
「怖いこと言いますね……」
私は、何度か目にした、職場近くの建物を見上げて、ため息をついた。
「感情のままに歩いていたら、日高さんの家の前に着きました」
『え、徒歩で!?』
珍しく日高さんの声が揺らいで、激しい物音が通話口越しに聞こえてきた。
あまりの騒音に、思わずスマートフォンから耳を離して、ギュッと目を瞑る。