イジワル上司の甘い毒牙
「黙っていたのは、悪かったと思う。あんな風に再会するなんて思わなかったし、それに……」
あの日――日高さんが告白してきた女性へひとりでに暴言を吐いてたのを、見てしまった日のことだ。
正直、あれが初対面だと思っていた私は、彼への印象は最悪だった。
日高春人に関しては、聖人のような噂しか出回っていなかったから、余計に。
日高さんは私の肩から手を離して、力が抜けたように肩を落とした。
「また振られるのが怖かったんだ」
その表情は迷子になった子供みたいで、こんな日高さん、見たことがないと、私はかける言葉を失ってしまう。
「教えて。佐倉さんは俺のこと好きじゃない?」
核心をつく言葉に私は一瞬、息を詰まらせた。
先程まで下を向いていた日高さんの視線が、今は真っ直ぐに私に向けられている。