イジワル上司の甘い毒牙

「……日高先輩と私じゃ、釣り合わないと思ったから」


ぽつり、ぽつり。

雨が降るみたいに、途切れ途切れにそう答えれば、日高さんはなぜか吹き出して、笑った。


「何それ?俺が君のこと好きだって言ってるのに?」

「ご、ごめん、なさい……」


他に言葉が出てこなくて、何度も謝罪の言葉を口にする。

しばらくして、静かにしろと言わんばかりに、日高さんの指先が私の唇に触れた。


「んー、どうしようかな。好きな人のこと忘れるとか、重罪だしね」

「す、好きなんて、言ってない……」

「え、嘘。この流れでまた振るの?」


数年前と同じく、つまらない意地を張ってしまった私を、数年前とは違って、洞察力が磨かれた彼によって、あっさりと暴かれてしまった。


「俺はずっと好きだったよ。佐倉さんのこと」


答えなんてとっくにわかっているだろうに、日高さんはわざわざ確認するように、そう口に出して言った。


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