イジワル上司の甘い毒牙
「ああ、確かに。佐倉くんの案は新鮮さがあるから良いかもしれないね」
「じゃあ、佐倉さんの案で行きますか?」
――通った。通りやがった。
「それでは佐倉さん、また後日改めて打ち合わせをしましょう」
そう言って私の方を向いて微笑んだ日高さん。そう。決定権は日高さんにある。
どんなプロジェクトも総監督は日高春人なのだ。
それはつまり、プロジェクトリーダーになるということは、この男の監督で仕事を進めていくこととイコールだ。
「しばらくよろしくね、佐倉さん」
差し出された手を取ることができないまま、上層部の人達がぞろぞろと会議室を出ていくのを横目で眺めていた。
握手を求めたもののなかなか応じない私に日高さんは困ったような顔をした。
「あの、何で私の案なんですか」
ようやく絞り出した声は自分でも隠せていないのがわかるほど不安の混じったものだった。
日高さんはニコニコと笑顔を崩さず、私の配布したプレゼン資料に赤ペンで書いた批評を指先でなぞった。
「佐倉さんの分析力は素晴らしいよ。流行を取り入れて、それをオリジナルにする力もあるからね」
「――それなら」
膝の上に置いた手が、無意識にスカートを握りしめていた。