イジワル上司の甘い毒牙
羨望、そして嫉妬
「佐倉さん、一緒にランチに行こう」
童話に出てくる王子様さながらに白い歯を覗かせて爽やかに笑う男――もとい、日高春人を前に私は静かに踵を返した。
プロジェクト資料をある程度まとめるため、オフィスでパソコンとずっとにらめっこをしていた私の疲労は既に終日のそれだった。
昼休みに入ったので甘い飲み物でも買って来ようかとオフィスから出ようとして出入り口を何者かに塞がれたかと思って顔を上げたら、これだ。
「無視?」
足早にその場を去ろうとした私の肩を、力強く掴んで日高さんが顔を覗き込んでくる。
この人は何でこんなに私にちょっかいをかけてくるんだ、早くどこかへ行ってほしい。
「すみません、私今日お弁当作ってきたので」
精一杯感情のない声でそう返すと、まるで効かないというように日高さんは口元を綻ばせた。
「へえ、佐倉さん料理できるんだ」
……そう言った声に、どこか含みがあるのは気のせいだろうか。
「じゃあ俺も今日はコンビニで買うから一緒に食べようよ」
その言葉に、私は思い切り露骨に口元を引きつらせて、答えた。
「……1人でゆっくり食べたいので、すみません」