イジワル上司の甘い毒牙

「普段はどんな食生活を……?」


空いた口が塞がらないとはまさにこのこと。きょうび、ダイエット中のOLでも昼食はもっと食べるだろうに。


「え、教えたらお弁当作ってきてくれるとか?」
「やっぱり教えてくださらなくて結構です」

「ごめんごめん、嘘だよ」


なんのメリットがあって知り合って間もない男にお弁当なんか作らなきゃいけないんだ。それなら食費と別に賃金を渡してほしい。


「朝ご飯は少しカロリー高めにウィンナーコーヒーで」

「はい」


最初からツッコミどころが満載だけど、とりあえず最後まで聞こう。私は日高さんの声を片手間に聞いて頷きながら、お弁当箱のフタを開けた。


「昨日今日は佐倉さんと食べたから、普通の食事だったけど」

「はい」


お弁当箱の隅にある赤いウィンナーを箸でつつく。油で滑ってなかなか掴めない。


「忙しい時は、サプリメントを飲むヨーグルトで流し込んだり」

「……どんな飲み合わせですか!想像で吐きそうなんですけど!」


掴みかけたウィンナーが箸から滑り落ちて、ふりかけのかかったご飯の上に転がった。

最後まで口を挟まずに聞くことに徹底しよう、という考えはものの数秒で吹き飛んでいった。


「時間がある時はパンやサンドイッチも食べるよ」


満点を取ったテストを母親に披露する子供のように、日高さんは少しだけ誇らしげにそう言った。


「ちなみに、夕飯は?」


この流れだとシリアルや果物と言われてもおかしくはない。覚悟を決めて、彼の言葉に耳を傾ける。


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