イジワル上司の甘い毒牙
「最近は野菜のスムージーにハマってるよ」
「そっちですか」
一応、彼なりに健康には気を遣っているらしかった。それにしても、栄養が偏りすぎている。
「お肉とか卵とか、動物性タンパク質も取らなきゃダメですよ!」
勢いよく唐揚げに箸を突き刺して、日高さんの手に無理矢理握らせる。それをきょとんとした表情で見て、日高さんはふわりと微笑んだ。
「食べさせてよ」
なんて爽やかに言うから、私は怒りに任せてその手首を強く掴んで低い声を出した。
「間違って鼻の穴に突っ込んだらごめんなさいね?」
「嘘、ごめん。俺が悪かったです」
よほど怖い顔をしていたのか、日高さんは少し口元を引きつらせて降参のポーズを取った。
握らされた箸の先に突き刺さる唐揚げをまじまじと眺めてから、日高さんは優雅な動作でそれを口に含んだ。
「うん。美味しい」
日高さんは時間をかけてゆっくり咀嚼したあとに、ぺろりと唇を舐めた。その仕草が妙にいやらしく感じてそっと目を逸らす。
ふと、通りがかる女性社員が白い目で私のことを見ていることに気が付いた。
「何あの女。日高さんの彼女?」
そんな声が聞こえてきて、私は更にめんどくさいことになりそうな予感がして目を細めた。