イジワル上司の甘い毒牙
「ねえ聞いた?日高さん、また昇格するらしいよ」
さすがよね、とミーハー女子達がお昼ご飯のお弁当を膝に広げながらきゃあきゃあと黄色声を上げるのを私はコーヒー牛乳をストローで吸い上げながら恨めしげに見つめた。
日高さん。日高春人(ひだか はると)さん。
国内で偏差値トップである国立大学を首席で卒業。
スポーツも万能であるらしく、大学受験の時期複数の強豪校――それこそプロになるような人が行くような大学からスポーツ推薦が来るほどだったが、何があったのかは知らないがスポーツは高校で辞めたらしい。
そして、この会社に入社して7年目。
過酷な業務と上司からの圧力に負け退職した同期もたくさんいる。それでなくても彼くらいの勤続年数だとせいぜい行けてプロジェクトリーダー。
そんな優秀な人材までをも飛び越えて28歳という若さで常務――他の会社ではどういうポジションなのかは知らないが、普段は現場で業務に入り社長が不在の際は社長の代理をしたりといわゆる社長補佐まで登り詰めたのだ。
元々うちの会社は年齢や勤続年数で評価したりはせず、完全なる実力至上主義。
優秀であれば若くてもそれなりの地位に着けるし、逆を言えばいくつになっても平社員もいる。当然勤続年数だけが募り妙なプライドと自信のある者は「自分はこんなところに収まる人間ではない」と自ら辞めていく。
そうして無能な人間を振るいにかける――それがこの企業のやり方だ。