イジワル上司の甘い毒牙
「俺なりの償いのつもり」
「償い?」
「誤解しないで欲しいんだけど、今回君をプロジェクトに入れたのは本当に君の分析力を買ったからだよ。いくらなんでも、仕事に私情を挟むわけがない」
自分の性格が良くないことも意地悪なことを聞いてるのもわかってる。それでも私は納得できなくて、口を開いた。
「その言葉を信じられるほど、私は日高さんのことを知りません」
一緒に仕事をするならもっと日高さんのことを知りたい、という意味でそう言うと、日高さんは腰に手を当ててため息をつく。
それから私の耳にかかった髪の毛を指先ですくいあげて、囁くように言った。
「お前、いちいちうるさい」
「っ……!」
耳をかすめた吐息に驚いて肩を震わせると、日高さんは微かに鼻で笑った。
「俺の本性がどうであれ業務に支障がなければそんなの関係ない。俺が猫被ってることでお前に何の不利益がある?教えて、今すぐに」
淡々と紡がれた言葉に弾かれるように顔を上げてその顔を見ると、感情の一切が抜け落ちた氷のような表情の日高さんがそこにはいた。
「……それじゃ、お仕事頑張って。あまり遅くならないようにね」
何を言い返せずに真っ青になって固まっていると、日高さんはいつものようにニッコリ笑って私から離れた。