イジワル上司の甘い毒牙
過ちと後悔の夜
とにもかくにも、嫌がらせをされているとなれば必要最低限、仕事に使う大事なものは守らなくてはいけない。
少し面倒だけど、席を外す時はデスクの上のものを引き出しの中に閉まって鍵を掛けるなり、カバンに入るものはカバンに入れて持ち歩くように気を付けている。
学生時代、部活内でいじめられていたから耐性も対策もバッチリだ。簡単に私を泣かせようなんて、そうはいかない。
「ねえ、佐倉さん」
会社にいる間、隙を一切見せない私に痺れを切らしたのか女性社員が帰り支度をする私に話しかけてきた。
聞こえていないふりをしようかと思ったけど、肩を叩かれてしまったらそういうわけにもいかない。
「……何でしょうか?」
「これからみんなで食事に行かない?前から佐倉さんと仲良くしたいなって思ってたの」
嘘ばっかり。そんな言葉は飲み込んで、私はデスクチェアに座ったまま彼女を見上げた。均等の取れた華やかで美しい顔が私を冷たく見下ろしてきた。
(こんな美人でも、なかなか日高さんに近付くことができないのかな。じゃなきゃ、彼に一番近しい場所にいる私にちょっかいなんかかけないよね……)
この誘いに乗れば何をされるかわからないし、断ったとしてもどんな仕打ちが待っているか想像も出来ない。