イジワル上司の甘い毒牙
「絶対あっちも俺のこと好きだろって思って告白したのに、フラられちゃったんだよね」
「それはそれは……」
あまりに何でもないように言うから、続く言葉が思いつかなかった。茶化せばいいのか、慰めればいいのか。
「理由を聞いてもごめんなさい、の一点張りで教えてくれなくて。未だにわからないんだ」
「……何か、事情があったんじゃないですか?」
当たり障りなくそう返すと、日高さんは私の瞳の奥を覗き込むようにして見つめた。
「佐倉さんならどう思う?」
「え、どうって……日高さんの視点ですか、相手の子の視点ですか?」
詳しく意見を求められると思っていなくて慌てると、返答があることは期待していなかったのか、日高さんはふっと小さく笑ってメニュー表を手に取った。
「それより、お腹空いたね。何か食べようか」
「はあ……」
自分から振っておいて切り上げるなんて本当に自分勝手で適当だなあ、なんて思いながらそれ以上の追求をする気になれなくて、大人しく頷いた。
あと、欲を言うならそんなに前の話じゃなくて直近の日高さんの恋愛事情が聞いてみたかった、なんてちょっと思ってしまった。