イジワル上司の甘い毒牙
話はだいぶ逸れたが、改めて日高春人という人間の話をしよう。
日高春人は俗に言う完璧超人だ。
仕事は出来るし、現在は次期社長候補とまで噂されるほど。部下や同期、上司に関わらず絶対的な人望もある。おまけにモデル顔負けのスタイルに女性ならば誰もがうっとりするような甘いマスク。
それらを鼻にかけることもなく、誰に対しても謙虚で物腰穏やか。でも仕事のこととなると時には厳しいことも言うという。
――何故こんなに詳しいかというと、私と彼は同じ部署に所属している。
とはいえ基本的にプロジェクトごとにグループ分けされているため、彼と話したことは入社してからほとんどない。日高さんが多忙で、プロジェクト期間中以外は基本的に社長補佐に回っているということもある。
「日高さん、彼女とかいないのかな」
「今はいないって。なーんか気になる女の子がいるらしいわよ」
女子って本当に恋愛話が好きだな、と思いながらコーヒー牛乳を流し込む。ズゴゴ、と空気の交じる音がする。
「そういえば成美ちゃん、さっき日高さんに告って振られたらしいよー」
「ゴフッ!」
コーヒー牛乳が気管に入ってむせる。
タイミングの良いそれに少し離れた場所でガールズトークをしていた女性社員達は一瞬こちらを振り向いたけど、すぐに興味を失ったらしく話題を戻す。