イジワル上司の甘い毒牙
「……佐倉さんって、本当にムードがないね?」
「へ、なに……?」
クリアになった視界に飛び込んできたのは、額を押さえて渋い顔をする日高さん。
動きを封じられた自分の手を目で追うと、その先には日高さんのもう片方の手と繋がっていた。
「おはよう」
「おはよう、ござい……ます……え?」
ようやく意識がハッキリとして、ぱちくりと目を瞬かせた。
目の前には端正な顔立ちの男。
普段はきちんとセットされた前髪がさらりと落ちて、その瞳に影を落とす。
「ふふ、身体は平気?」
「か、カラダ!?」
日高さんの手を振りほどいて勢いよく起き上がると肩までかけられていた布団がめくれ上がった。
意味深な言葉に慌てて自分の格好を確認すると、男物と思しき薄手のパーカーつきのスウェットを着ていた。
同じベッドで一夜を共にしたらしい男と自分の身体を何度も見比べて、そのうちに顔面から血の気が引いていく。
「な、何かしました?」
昨日、居酒屋で日高さんと最近ハマってるパズルゲームのことで意気投合したところまでは覚えてる。
そこで楽しくなってしまって、お酒が進んで……ダメだ、思い出せない。
ビクビクと怯えながら日高さんの答えを待っていると、彼は寝転がった状態のままで頬杖をついて、うーんと唸り声を上げた。