イジワル上司の甘い毒牙
「ところで、ここはどこですか?」
「俺の家。社宅だから、会社から近いよ」
私の質問に欠伸混じりに答えながら、日高さんはやっと身体を起こした。
こんな無防備な彼を見られる日が来るなんて、少し前までは思わなかった。ていうか、接点を持ってからもそんなこと思ったこともなかった。
「そうだ。昨日佐倉さん、吐いちゃったから服は洗濯しておいたよ」
日高さんが指差す先、物干しスタンドにぶら下げられた私の服を見て、私は悲鳴を上げた。
「ええ!?すみません!」
「俺は大丈夫だけど、佐倉さんはもう体調良いの?」
私が勢いよくベッドから転がり落ちて、そのまま土下座の姿勢になると、日高さんは苦笑いをして私の脇の下に手を入れて抱き上げた。
猫のような扱いでそのままベッドに座らされて、彼を見上げる形となる。
目と目がバッチリ合ってどうしたらいいかわからず固まっていると、日高さんは「ん?」と首を傾げ、ふわりと目を細めて微笑んだ。
「あ……大丈夫です、全然」
今まで事務的で機械的な微笑みしか向けられたことがなかったから、いきなりそんなふうに微笑みかけられて驚いた。
それと同時に、目の前の男の顔面偏差値の高さに耐えられずにそっと目を逸らす。