イジワル上司の甘い毒牙
「佐倉さん、さっきのちょっと嘘」
「さっきの?」
何のことを話しているかわからなくて首を傾げていると、日高さんは私の目の前でしゃがんだかと思うと、自分の胸元をトントン、と指差した。
「だから、何ですか?」
なかなかその先を言わない日高さんに少しイラついて強めの口調で言うと、日高さんは困ったように目を逸らした。
「本当に何も覚えてない?」
「申し訳ないですけど、本当に……」
そこまで言って、いつもは嫌になるくらい目を見つめてくる日高さんが一切こちらを見ていないことに気が付いて、嫌な予感を覚えて私は口をつぐんだ。
ゆっくりと、スウェットの首元を指先でつまんで、自分の身体を見下ろす。
「……ごめん、本当に」
視界に入ってきたのは、女性特有の膨らみを包み込んで支える下着と、申し訳程度に出来た谷間。……の、近くにチラつく赤い斑点。
――静かな住宅街の朝に、つんざくような悲鳴が響いた。