イジワル上司の甘い毒牙

「何これ……」


差し出されたのは会議室に備え付けられているゴミ箱。ゴミ箱の中にゴミ箱らしくゴミしか入っていない。

なんの変哲もない、細かく破かれた書類と男性社員の手の上には壊れたUSB――よく見ると、どちらも今日のプレゼンで使用する予定のものだった。


「これ……どうしたんですか?」


頭の中が真っ白になりながらも、声を振り絞ってなんとか問いかけると、男性社員は泣きそうな顔をしておずおずと口を開いた。


「すみません、席を外してる時にこんなことに……。パワーポイントは発表用のパソコンに移してたのでなんとかなりそうですが、原稿が……」


原稿は印刷されたものと、壊されたUSBの中にしかない。こんなことになるならパソコン本体にも保存しておけば良かったと後悔しながら、私は下唇を噛んだ。

八枚にも及ぶ原稿の内容なんて、いくら作成した本人だとしても覚えているはずかない。どうしよう、こうなったらパワーポイントを見て思い出しながら話すしかないか。


でも、今日は取り引き先の方も見に来る大事なプレゼンだ。

失敗、できないのに。


< 40 / 107 >

この作品をシェア

pagetop