イジワル上司の甘い毒牙
「どうかした?」
どうにかして打開策を絞り出そうと思案していると、肩を叩かれた。
弾かれるように振り向くと、まるで状況がわからないといった困惑した表情の日高さんが、説明しろと言わんばかりに真っ直ぐに私を見つめている。
「すみません。発表原稿が、ダメになってしまって……」
破かれた原稿の欠片と、ペンチか何かの工具で破壊された形跡のあるUSBを日高さんに差し出すと、彼は眉をひそめてそれを受け取った。
日高さんはそれをしばらく押し黙ったままで眺めて、意を決したようにそのまま握り締めて、顔を上げた。
「佐倉さん」
「は、はい……」
迷いのない瞳と凛とした声に思わず気後れして、返事をする声が震えてしまった。
無意識に血が滲むほどに噛み締めてしまっていた唇に、日高さんの親指が触れる。