イジワル上司の甘い毒牙
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社内の重役から取り引き先の方が、神妙な面持ちで長椅子の前に座っている。手元に配布されたプレゼン資料を見ては、壇上に立つ日高さんを品定めするような視線で見たりを繰り返していた。

言いようのない緊張感に身を固くしていると、日高さんが全体に向けてふんわりと笑顔を見せて挨拶をして、次の瞬間には真剣な顔をしてプレゼンを始めた。

心なしか室内の空気が少しだけ柔らかいものに変わった気がして、私もほっと胸を撫で下ろして、彼の心地の良い声に耳を傾ける。


「すごい……」


誰にも聞こえない小さな声で、私はそう呟いた。

スクリーンに表示される図やデータに合わせて、一字一句間違いなく私の書いた原稿が読み上げられていく。

まるで手元に原稿があるかのように、迷いも淀みもない声。
いや、それどころか、私の作った原稿では不十分だった説明も補ってくれいるようだった。


「ご清聴、ありがとうございました」


完璧すぎるプレゼンと、心地よく鼓膜を震わせる落ち着いた声に、うっかり聞き入っていると、唸り声と、拍手が聞こえてきた。慌てて私も控えめに拍手を送る。

賞賛の声を浴びせられ、謙虚に会釈をしてビジネススマイルを返す日高さんをじっと見つめていると、ばっちりと目が合ってしまった。

まさか目が合うと思っていなかったので、そのまま固まって目を逸らせないでいると、日高さんは先程までの仕事用の柔和な笑みとは少し違う、花が咲く瞬間のようにふわりと笑った。

あまりに綺麗に微笑むから、思わず顔を赤くしてしまう。

すぐに俯いて視線を外したので、彼の様子はわからない。赤くなった顔を見られてないといいけど。

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