イジワル上司の甘い毒牙
「見てたらわかるよ」
そう言って優しく笑う顔が眩しくて、私は思わず目を細めた。
最後の長机を戻し終えた日高さんは、まくっていたワイシャツの袖を戻した。
先ほどの笑顔とは違って、真剣な表情でボタンを付ける日高さんに少しだけ、本当に少しだけ色気を感じてしまって、そっと目を逸らした。
「佐倉さん」
「……は、はいぃっ!」
熱視線を送ってしまったことに気付かれたのかと思い、悲鳴のような返事をすると、日高さんは不思議そうに首をかしげた。
どうやら気付いていなかったらしい。
「ちょっとだけ、どこかで時間潰してて。あと、その間オフィスには絶対近付かないでね」
「ど、どのくらい?」
「十……いや、五分でいい」
絶対に近付かないで、という言葉を強調して言われて、私はその思わず身がすくんでしまってそこにツッコミを入れることが出来なかった。だって、目が笑っていなかったから。
「飲み物でも買って、少し休むといいよ」
懐から日高さんが出した薄い長財布の中から、お札が一枚抜かれて、そのまま私の手に握らされた。樋口一葉さんがこちらを見ている。