イジワル上司の甘い毒牙
「ええ……別に私、飲み物なんていらな」
「好きな物買っていいから。お釣りはあげる」
「貰えませんよ!せめて千円にしてください!」
この男が何を考えているのか皆目検討もつかない。渡された五千円札を彼に向けて押し返すと、彼は困ったように眉を八の字にした。
「今、それ以上に細かいお金がないから。それともカードにする?」
真面目な顔をして財布を差し出そうとしてくるから、私は「お茶!お茶買ってきます!」と言ってその場を後にした。
人にカードどころか財布を丸ごと貸そうとするなんて、何を考えているんだ。
悪用されたらどうするんだと、日高さんの自分のことに関しての無頓着さに腹を立てて、私は廊下を大股で歩いた。
――それとも、私のことをそれだけ信用しているってことなのかな。
なんて馬鹿なことを一瞬でも考えてしまった自分にも腹が立って、私はぐっと唇を噛んだ。