イジワル上司の甘い毒牙
「お、お疲れ様です……」
「お疲れ様。もう帰る?」
「は、はい……カバンを、取りに……」
謝った方がいいのかとも考えたけど、意図せず盗み聞きしてしまったことを自白するようなものなので、黙ることにした。
質問されるがままに返答すると、日高さんはキラキラのスマイルを見せた。
隙のない完璧な、王子様さながらのその仕草がなぜだか恐ろしくて、私は息を止めてしまう。
「一緒に帰ろうか」
「……いやー……大丈夫、デス……」
この流れ、絶対そう来ると思った。
私は彼から視線を外したくて、うつむいた。
けれど、日高さんは笑顔を崩さないままで私の顔を覗き込んだ。
「今日は何もしないよ?」
「き、今日は……?」
日高さんの意味深な発言にビクビクしながら後退りするけど、彼の長い足ではたった一歩で、取った距離を詰められてしまう。
「でも、俺今日頑張ったからなぁ?」
先ほどまでの王子様スマイルはどこへやら。
にやにやと、イタズラを企てる子供のように意地悪く笑って、日高さんは私の肩にかかった髪の毛のひとふさを、指先ですくい上げた。
「ひっ……か、カラダが目的で!?」
「え、したいの?」
真顔で聞いてくるから、私は自分を守るように両手を前でクロスした。
顔面蒼白で首をぶんぶん横に振れば、小さく声を上げて笑われてしまった。
からかわれた、みたい……。
「一緒に帰るくらい、いいでしょ?」
「ふぁ……!?」
日高さんの吐息が耳をかすめて、あまりのくすぐったさに変な声を出してしまった。
恥ずかしさで顔を真っ赤にすると、再び日高さんに笑われてしまって、またからかわれたことを悟った。