イジワル上司の甘い毒牙



「こんなもんかな」


印刷機の前で作成した資料を印刷し終え、呟いた。

印刷する前にパソコンでも誤字脱字を確認したけど、念には念をと自分のデスクに向かいながら書類を見ていると何かにぶつかった。


「あ、すみませ……」


自分の不注意でぶつかってしまったことを謝罪しつつ顔を上げて――私は固まった。


「ごめんね、佐倉さん。俺もよく前を見てなくて」


さりげなく私の肩を掴んで支える手の主、日高春人の貼り付けられたようなうさん臭い笑顔に私は本日二回目の身震いをした。

昨日からエンカウント率が高すぎないか。


「い、いいえ。私が悪いので」


今の私はあからさまに関わりたくないですといった表情をしていることだろう。

手短に返事をして日高さんの隣を通り抜けようとすると、肩を掴む手に力を入れられて思わずうめき声を上げた。


この野郎、と思って睨み付けると日高さんは爽やかに笑った。


「佐倉さん、もう昼休憩の時間だけどご飯は食べた?」

「え?いや……まだですけど」


あなたが今こうして引き止めなければ私は今頃コンビニに向かっていたんですけど。

言いかけた言葉を飲み込んで日高春人の次の言葉を待つ。にっこりと微笑んだ日高さんに嫌な予感を覚えて息を呑む。


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