イジワル上司の甘い毒牙
「キスしてもいい?」
「な、何もしないって言った……」
「佐倉さんが誘ったんだよ」
大きな手が額に触れて、私は反射的に顔を上げた。
唇に温かいものが掠めて、瞬きをした次の瞬間には、唇と唇が確かに触れ合った。
「……嘘つき」
ちゅ、と軽いリップ音を立てて離れた唇。
熱くなった頬を隠すこともせずに日高さんを睨みつけると、彼が肩を震わせて笑うから、同時に私の身体も揺れる。
「もうしないよ」
背中に腕が回されて、そのまま日高さんは横向きに寝転んだ。
日高さんの腕の中で、彼の香りを嗅いでいたら、一気に眠気が襲ってきた。
「おやすみ」
眠くなってきたのは日高さんも同じらしく、低く掠れた声でそう言って、自分と私の身体に、優しく掛け布団をかけた。
「おやすみなさい、日高さん……」
うつらうつらしながら小さな声で応じると、回された腕の力が少しだけ強くなって、彼の胸に頬を寄せる形になる。
こんな風に誰かと寝たのは、幼少期以来だ。
大人になって感じた人の温もりは、低温やけどをしてしまいそうなほどに、熱かった。