イジワル上司の甘い毒牙
「お腹空いちゃった?」
小声でそう問いかければ、肯定するように猫はもう一度鳴いた。
とは言ってみたものの、勝手に家を物色してエサを与えるわけにもいかず、苦笑いをしながら猫の頭を、そっと撫で上げた。
頭を撫でてあげたことで幾分か満足したのか、猫は私の手をすり抜けて、尻尾をゆっくりと振りながら自分の飼い主の元へ歩み寄った。
眠る日高さんの頬を肉球でふにふにと叩いたり、尻尾を主人の手に軽く叩きつけたりと、起こすために奮闘しているようだった。
「ん……」
安らかに眠っていた日高さんの表情が、一瞬苦悶に歪む。
しばらくして、一定のリズムで行われていた呼吸が乱れて、ゆっくりとその瞳が開かれた。