イジワル上司の甘い毒牙
「佐倉さん、良かったら一緒にランチでも行かない?」
「は?」
一気に絶望の淵に落とされたテンション。
私が全力で眉根を寄せて不快感を示していると言うのに目の前の男は顔色一つ変えない。
「いえ、私は……」
何とかして無理矢理立たされたフラグをへし折らなければならないと首を横に振りかけて、大きな右手で両頬をがっしりと掴まれた。
「行くよね?」
そのままキスされるんじゃないかと思うくらい、日高さんの整った顔が近付いてくるのに全くときめかない。
むしろ別の意味で心臓がドキドキしてる。
「わ、わかっ、わかりました!い、行きます……!」
昼休み時で各々が外食に行ったりコンビニに昼食を買いに行って誰もいないオフィス。
だからといって誰も戻って来ないと言う保証もない。
再三言うが、こんな場面を誰かに見られたら私の未来はない。この状況を打破するためにはこの男に従うこと以外、思いつかない。
「うん。ありがとう。嬉しいよ」
ふわりと花が綻ぶように綺麗に笑った男の顔面を、社会的に許されるのならば今すぐに殴り付けてやりたい。
精一杯の警戒心と嫌悪感を込めて日高春人を睨み付けても、返ってきたのはやはり人好きする微笑みだけだった。