イジワル上司の甘い毒牙
「そう。じゃあ、気が向いた時に電話して」
懐から取り出した手帳に、それに挿し込んでいたペンを、慣れた手つきでさらさらと何かを書き込んだ。
破り取られた紙を押し付けられて、私は首を傾げる。
「それ、プライベートの方だから」
カチン、とボールペンのノックが戻る音を聞きながら、私はぽかんと口を開けた。
「こ、公私混同……」
「何とでもどうぞ?」
日高さんはそう言って笑って、資料を収めたプラスチックのファイルを胸に抱えて、立ち上がった。
鍵を管理しているのは日高さんだから、私もそれにならい慌てて立ち上がった。
「楽しみに待ってるよ」
慎重に、丁寧に、入念に。しっかりと張り巡らされた蜘蛛の糸に、まんまと引っかかった虫のような気持ちで、私はその綺麗な笑顔に見とれていた。
私の知っている日高春人は、どこまでも狡猾な男だった。