イジワル上司の甘い毒牙
「あれ……珍しい……」
ロック画面に表示されたポップからメッセージアプリを開けば、高校時代親しくしていた友人からだった。
とはいえ、一年に数回、安否確認の連絡する程度で久しく会っていない。
明日、暇なら食事でも行かないかという簡潔な友人からのメッセージに、私は二つ返事で答えた。
「そうだよね……別に、連絡なんて、理由がなくてもいいんだよね」
それが、親しい間柄ならば。
果たして、日高さんと私はそれに当てはまるのか?
ぐるぐると色々と考えた結果、とりあえず連絡先だけは登録しておこうと、電話帳を開いて、連絡先の新規作成をする。
無意識に「二重人格上司」と打ち込み、電話番号を登録しようとしたところで、すっと我に返った。
静かに「日高春人」と打ち直して、登録ボタンをクリックする。万が一本人に登録名を見られたら弁解ができない。
「あれ、何で登録できないんだろ?」
何度登録ボタンを押しても、「この番号は既に登録されています」とはねつけられてしまう。
日高さんの電話番号を登録した覚えはないんだけど。
答えが喉元まで出かかった時、友人から待ち合わせ場所と時間の指定のメッセージが来た。
内容と現在時刻を確認して、もう寝ないと明日の朝が辛いなと思い、私は眠気でおぼつかない指先で、電話帳のタブを閉じた。