イジワル上司の甘い毒牙

「そうそう。あたし、結婚するんだ」

「ああ、おめ……結婚!?」


上の空で口にしかけた祝福の言葉を中断して、私には縁遠い二文字に思わず驚きの声を上げてしまった。

照れくさそうに口元に手を当てた彼女の左手の薬指には、確かに高そうな指輪がぴったりとハマっていた。


「驚いた?」


今まで彼氏がどう、とかいう話を一切して来なかった友人の突然の結婚報告。

先を越されたとか、そんなこと聞いてないとか思うよりも、どう受け入れたらいいのか、戸惑いの方が勝ってしまい、私は眉をひそめた。


「お、驚くよ……。おめでとう……」

「ありがと。それを報告したくて、今日は千枝を呼んだんだ。結婚したら、あんまり遊べなくなるだろうし」

「そっか。うん、話してくれてありがとう」


一番最初の話題でこんな重大発表をされてしまったら、このあとの話題に困ってしまう。

私は彼女を驚かせるような話なんてないし、それよりもこの話を掘り下げた方がいいのだろうか。

数年ぶりに再会した友人と、どんな話をしたらいいのかわからない。この数年間、あまりに私は人とのコミュニケーションを避けすぎたらしい。


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