イジワル上司の甘い毒牙

「千枝はどうなの?彼氏とか」

「えっ!?か、彼氏はいない……かな……」


戸惑い、黙り込んでしまった私に、友人が出してくれて助け舟はものすごい勢いで、私の心を突き破って通過していった。


「えー、なに?良い人はいるってこと?」

「いや、別に……そういうんじゃないから、たぶん」


これ以上は聞くな、という意味を込めてそう言ったつもりなんだけど、友人は別の解釈をしたらしい。興味津々に身を乗り出しきた。


「え、じゃあなに、怪しい関係?嘘、あの大和撫子千枝が?」

「その呼び方やめて。違うから」


大和撫子、高校時代の私のあだ名だった。
今思えば、バカ真面目で堅くて地味な、私への皮肉だったんだろうけど。

私が即座に否定すると、友人はなんだー、とつまらなそうにして、店員さんが持ってきてくれたお冷のグラスに手をかけた。


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