唯少女論
「———桜木さん。次のページ読んでもらえる?」
英語の先生が教壇から私を見ていた。
「………はい」
私が立ち上がると先生は振り返り板書を始める。
「えっと———」
突然意識が現実に引き戻されて私の脳内は完全に機能していなかった。
「………わもかちゃん! 39ページの下!」
窓際の席から唯理さんの小さな声が聞こえた。
シャルと一緒に『39』と大きく書かれたノートを私に見せている。
そこは『デイジーと虹色ウサギ』という児童文学の英詩が載せられていた。
おてんばなデイジーが公園で虹色の毛並みをしたウサギを見付けるシーンだった。
「はい、ありがとう。発音も上手ね。だけど、読んでほしかったのは次の段落からだったかな。じゃあその次の段落からは藤田さん。読んで」
「えー!」
大げさに声を上げるシャルに私は手を合わせて小さく謝罪した。
仕方なく読み始めるシャルの後ろで唯理さんが私を見ていた。
真っ直ぐ、とても真っ直ぐな瞳で。