唯少女論
「アタシね、———陸上部辞めようと思ってるんだ」



数学、国語とやってお昼になった頃、兄が作ってくれたサンドイッチとコーヒーで昼食をとっていると、何でもないことのように唯理さんから言葉が放たれる。



「そしたら、夏休み遊びに行こうよ」



その言葉は落書きを始めた彼女のノートに線となった。



「そうだ。わもかちゃんはランドとシーだったらどっちに行きたい?」



顔を上げた彼女は私の気持ちも知らずに微笑む。



「陸上部、辞めてどうするの?」



「美術部に入るよ。最近絵を描くのが楽しいから」



「どうして辞めちゃうの? だって唯理さん陸上の推薦だって言ってたじゃない」



「それは、走ることに理由を見出せなくなったって言うか、走ることは好きだけど競技で走るのはもういいかなって」



「部活辞めたら学校も辞めちゃうの?」



「学校は辞めないよ。バイトしてでも学費はちゃんと払うから」



彼女の突然の言葉は私が言うはずだった話にも似ていて、今日二人に伝えようとしていたことを忘れてしまいそうだった。



「私は唯理にも学校辞めてほしくないな。せっかく三人友達になれたんだしさ。ね、わも」



「そうだね………」



そんな浮かない表情を思わず出してしまった私を唯理さんは見逃さなかった。



けれど視線が合うと唯理さんは満面の笑顔で、



「とにかく三人でランドもシーも行こうよ。夏休みはいっぱい遊ぼう」



無邪気なコドモみたいに言った。



「宿題やってからね」



そうやって彼女を諭す私は母親のようだろうか。



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