繋がる〜月の石の奇跡〜
すると、大谷の部屋の前に、缶ビールを片手に持った井上が立っていた。

『そっか。今日バスケサークルの飲み会するって言ってたな。井上くんも来てたんだ。』
そんなことを思いながら、えみが会釈すると、井上も軽く頭を下げてきた。

ドアの鍵を掛けようと鞄から鍵を取り出そうとしていると、大谷の部屋の中から可愛らしい声が聞こえてきた。

「あれ~?圭くんどこ行っちゃったの~?」

その声でゆりこが飲み会に来ていることがすぐに分かった。

えみが鍵を掛けようとした瞬間、井上がこちらへ早歩きで向かってきて、えみの腕をぎゅっと掴んだ。

「ごめん、ちょっとかくまって。」

井上はえみの部屋のドアを勝手に開けて中へと入っていく。

井上に腕を掴まれたまま、えみも井上と一緒に部屋へと入る。

そして井上はえみの方を振り返り、えみをじっと見つめている。

えみも思わず、じっと井上の瞳を見つめ続けた。

すると、

「わりぃ。」
井上はえみの腕から手を離して、両手を合わせて言った。

何が起きているか頭の中で整理できていないえみは、黙り込んだまま、井上を見つめ続ける。

「いきなりわりぃ。俺、ちょっと一人になりたくて。」
井上が慌てて弁解する。

「でも、よく考えたらよく知りもしない女の子の家にいきなり入るなんて、どうかしてるよな。ごめん。」
続けて井上が早口に話しをする。

「ふ、ふふふっ。」
そのあまりにも慌てた様子が、これまでイメージしていた井上の印象と全然異なり、えみは思わず笑ってしまった。

「え、えっと。」
戸惑った様子で井上がえみを見る。

「ごめんなさい。なんか意外で。」
えみはお腹を抱えて、口を大きく開けて笑い始めた。

井上は、頭を掻きながら少し戸惑う。

しばらく笑っていたえみは、ふっと井上との今朝の出来事を思い出す。
「あ。。」
笑うのをやめて井上の方をちらっと見る。

「あの、今朝は本当にすみませんでした。タオル汚しちゃったし、寝てるところ覗いてたと思って変なやつって思ったよね。」
今朝の出来事についてもう一度謝る。

「いや。俺も驚かしちゃったし。コーヒーだめにしちゃったし。」
井上はこれまでとは少し違う優しいトーンの声で言った。

えみと井上は、なんとも言えない空気の中、玄関に立ち尽くす。
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