繋がる〜月の石の奇跡〜
お昼の時間になり、えみは、一人で購買へ行きサンドイッチとオレンジジュースを買った。

図書館の裏側にあるベンチに座ってサンドイッチを食べ始める。

すると遠く離れたベンチに仰向けになって寝そべっている井上がいることに気づいた。

えみは、気づかれないようにそっと目を向ける。

井上は、親指と人差し指で何か小さなものを持って、太陽にかざして見ている。

えみの座っている位置からは、何を持っているのかは分からなかった。

しばらくすると、それを手から離し、左手に持っていた本を自分の顔の上に乗せて顔を覆い隠した。

『何見てたんだろう。』
オレンジジュースを飲みながら、えみはそんなことを思った。

すると、向こうの方から大倉ゆりこが歩いてきた。

相変わらず、綺麗に整った髪と服装がとても可愛らしい素敵な女性だった。

ゆりこは、井上の座っているベンチのすぐ側まで来て、すっとしゃがみこみ、井上の顔に覆いかぶさっていた本をそっとどかした。

そして、風邪に靡く井上の髪を撫でながら、無防備に寝ている井上を見つめる。

井上はゆりこには気づくことなく、そのまま目をつぶって動く様子はない。

ゆりこの顔は、徐々に徐々に井上の顔に近づいていき、ゆりこの唇と井上の唇が重なった。

えみは、パッと別の方向を見て、そのまま足早にその場を立ち去った。

『見ちゃった。見ちゃった。』
胸のドキドキは止まないまま図書館へとずんずんと歩いていった。

すると途中で、誰かにぶつかる。

その人は、両手でえみの肩をそっと支えた。

えみがパッと顔を上げて見上げると、そこには大谷の姿があった。

「えみちゃん!慌ててどうしたの?」
自分の胸とぶつかったえみのおでこを優しく撫でながら大谷が微笑みかける。

「いえ。なんでもありません。すみません。前見てなくて、ぶつかっちゃって。」
えみも自分のおでこに手を当てて答えた。

「図書館行くの?」
大谷がえみに聞く。

「はい。まあ。」
少しそっけなく答えた。

「一緒に行くって言いたいところなんだけど、これから実習なんだ。またね。」
そう言っていつものように笑顔でその場を去って行く。

大谷は、えみが来た方向へ歩いて行った。

そして、井上とゆりこがベンチに座っている姿を見かける。

大谷は、口元に手をやり、ふーんと意味深につぶやくと二人の姿を眺めて、方向を変えて別の道へと歩き出した。

えみは、図書館に入り、入り口の一番近くの席にすとんと腰掛けた。
『なんでこんなに気分が沈むんだろう。』
深い深呼吸をして気持ちを整えようとする。

『やっぱり私、どこかで光輝と井上くんを重ねているんだ。光輝も今頃、誰か別の素敵な女性とキスをしたり、楽しく過ごしているのかもしれない。』

そんなことを考えると胸が苦しくなって、涙が溢れそうになる。

両手をテーブルに置き、そのまま顔を伏せた。
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