繋がる〜月の石の奇跡〜
「えみちゃん、今日は急にごめんね。」
車が走り出して少し経った頃、大谷が話し始めた。
「いえ。大丈夫ですよ。それよりどこに行くんですか?」
えみが聞き返す。
「ああ。言ってなかったね。合宿の買い出しに付き合って欲しいんだ。」
「買い出しですか。」
えみは納得したように言う。
「本当はえみちゃんと二人で行きたかったんだけど、井上が付いて来ちゃってさ。」
再び大谷が冗談ぽく言う。
「いやいや、俺は元々買い出し班だったじゃないですか。」
井上が反論した。
『やっぱり今日の井上くんは、いつもより明るい。』
そしてえみは、ある日の井上を思い出す。
前にトンカツを一緒に食べようとしたとき、井上は今日みたいに明るくて優しい感じの話し方だった。
『きっと仲良くなったら、いつもこんな感じで話してくれるんだろうなぁ。』
井上と大谷の会話を聞きながら、そんなことを考える。
「それでさ、えみちゃん合宿で何作ってくれる?」
唐突に大谷が聞いてくる。
「へ?」
質問の意味がよく分からないえみは、気の抜けた声を出した。
「合宿のときの朝飯と昼飯作って欲しいんだよねー。」
「そんなの聞いてませんけど。」
少し戸惑った口調でえみが言う。
「ごめん、ごめん。えみちゃん一人ってわけじゃなくて、あずさちゃんと、あと大倉にも手伝ってもらうつもりでいるからさ。」
舌を出してお茶目を装って大谷が答える。
大倉という名前に、えみは一瞬ドキッとする。
『大倉さんも来るんだ。』
「俺、トンカツ食いたい。」
井上が話に割って入って来る。
「えッ。」
えみは驚いて井上の方を見る。
「作ってくれる?」
助手席に座っている井上が、えみの方を向いて犬みたいになって人懐こそうに聞いて来る。
「ぎゅ、牛乳も買おう!」
思わずえみの口からそんな言葉が出た。
「何で牛乳?」
突然牛乳と言い出したえみに、大谷が不思議そうに聞く。
「あ、えっと。あのー。」
あたふたしているえみを見て、井上が笑い出した。
「大谷さんにはヒミツっす。」
えみと井上は顔を見合わせ一緒に笑う。
「なんだよー。」
『なんだか楽しい。』
えみは心の中でそう思った。