繋がる〜月の石の奇跡〜
その頃、井上は落ち着かない様子で待ち合わせの場所をうろうろしていた。


そして合宿所の中から出て来た大谷に気がつく。

「大谷さん、お疲れ様です。」

井上はいつもよりも丁寧な挨拶をする。

「お疲れ。」

二人ともどことなくぎこちない様子である。

「大谷さん、俺・・・」

大谷が井上の横を通り過ぎたとき、井上が大谷を呼び止めた。

「井上。」

そして、井上の声をかき消すように大谷が声を上げた。


蝉の鳴き声が響き渡る中、一瞬二人は静寂に包まれた。

「いや、何でもない。」

そう言って大谷は井上の方に振り返った。

「俺、今から帰るから、あと、よろしくな。」

大谷はいつになく真剣な顔をしている。

「はい。」

井上は少し強張った顔で、返事をした。
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