ただ、忘れることも出来なくて。



ひゅっ、と自分の息を聞いた。
涙が止まらなかった。お母さんに心配された、保冷剤を持たされた。冷やしながら、バスに揺られる。
まえなの席へ向かう。
「えり、」
それ以上何も言えないような声をしてまえながわたしを抱きしめた。
「まえなぁ……まえなー……」
「えりー、えり……」
教室を出て、ふたりで抱き合う。
そのまま、保健室へ直行した。
「永野先生ーわたしも涙ひどいんですけどー……」
「えー? あー、河野さんと横原さん。水いる?」
「くださいー」
ふたりでボロボロ泣きながら水を飲む。うわあん、とまたふたりで泣く。
「頑張ったねー、ちゃんと泣くときは泣こうよ」
「はいぃ」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながらずっとぎゅうっと抱き合っていた。
「まえなーまえなー」
「なーにー」
「ごめんねー心配ばっかー」
「いーよー、頼ってくれるのうれしいよーうー」
「あーのーねー」
「なーあーにー」
「わたしちゃんとたくのこと吹っ切ることにするよ。ずるずるメール送り続けるのもうやめるー。わたし華の高校生だよー。恋したいー」
「してくれー楽しいよー」
「楽しい恋したいー別れたとしても、いい思い出になるくらい」
「うん」
「だから保冷剤、自分で持ってくー今日持って帰るー」
「うん……」
「最後、最後に一個、吹っ切る宣言メールたくに送らせて!」
「すればいいじゃんー」
「うん」

宛先: 田邊 拓
Cc/Bcc:
件名: またね
本文:
ずるずるたくにメールを送っていましたが、もうやめます。たくのこと、好きじゃなくなる努力するからね。またね、またいつか。
えり
P.S. 絶対一生怨むからね!

「怖いよーえり。怨むって漢字が」
まえながぶるっと身震いする。
「なんで普通の恨むじゃないわけ?」
永野先生がはははと笑う。
「死んでるんだから、既に怨みで。これからも、怨むよ」
「怨みで亡くなったの、田邊さんは! 怖! 恐怖! どんだけパワーあるのえりの怨みは」
「死んだひと追い詰めるくらい」
「うわ、怖ー。一生えり敵に回さないとこ」
「ふふふ、まえながずっと友達なのは嬉しいよ」
「怖、怖すぎ!」
あははは、とまた永野先生が笑う。
「悲しく、なくなった?」
「悲しいです、今も。でも忘れる努力します」
「それがいいね」
「応援するよ! で、お次はどんなひとを?」
「えーこれからー」
「じゃあー、わたしえりのこと気になってる男子何人か紹介したげるよー」
まえながひひひと悪戯そうに笑う。
「えーいるの?」
「いるよーえり好きなひといるからごめんねー、ってずっと断ってたんだよね」
「じゃあスタート地点をそこに置くよ。紹介して」
「よっし、よく言った!」
まえながばしーん、とわたしの背中を叩く。

もう変わるから、見ててね?

たく。
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